壮大なテーマであるが、ここでは簡単に研究のお作法、くらいに考えて記述する。

形態解析研究におけるやってはいけない前処理

画像解析において前処理は不可欠である一方、過剰な前処理は形態解析研究を静かに破壊する
特に病理画像や医用画像では、「きれいな画像」と「研究に適した画像」は一致しないことが多い。

形態解析研究において実務上やってはいけない前処理を、失敗を避けるという観点から整理する。

1. 正規化をかけすぎてしまう問題

輝度正規化やヒストグラム正規化は、画像間のばらつきを減らす目的で広く用いられる。
しかし、これを無条件に適用することは危険である。

病理画像における染色強度の違いは、単なる撮像条件の差ではなく、生物学的差異そのものである場合がある。

正規化によって群間差が「消えて」しまう場合、それはノイズ除去ではなく、研究対象そのものを除去している可能性がある。

2. 平滑化・ノイズ除去を強くかけすぎる問題

Gaussian filter や median filter は、セグメンテーションの安定化に寄与する。
一方で、過度な平滑化は以下の問題を引き起こす。

  • 細胞境界が曖昧になる
  • 小さな構造変化が消失する
  • 形態差が均質化される

形態解析において重要なのは、ノイズを消すことではなく、どのノイズが生物学的意味を持つかを判断することである。

3. 「見た目が良い」ことを目的にした前処理

コントラスト強調や疑似カラー化は、プレゼンテーションや教育用途では有用である。
しかし、研究用画像としては注意が必要である。

視覚的に強調された構造は、解析アルゴリズムにも同様に強調されて入力される。
その結果、解析結果が人為的な強調に強く依存することになる。

研究に用いる画像は、「見せるための画像」ではなく「測るための画像」である。

4. 一律の前処理をすべての画像に適用する問題

前処理を自動化・バッチ化すること自体は重要である。
しかし、撮像条件や染色条件が異なる画像に対し、同一の前処理を機械的に適用することは危険である。

特に、

  • 染色が弱い標本
  • 背景ノイズが多い標本
  • 切片厚が異なる標本

では、前処理の影響が不均一に現れる。

前処理は「条件が揃っていること」を前提とした操作であり、その前提が満たされているかを常に確認する必要がある。

5. 前処理の妥当性を説明できないまま進めること

前処理の最大の問題は、
なぜその処理を行ったのか説明できないことである。

  • なぜ正規化が必要なのか
  • なぜこのフィルタを選んだのか
  • なぜこのパラメータなのか

これらに答えられない前処理は、査読段階で必ず問題になる。

形態解析研究では、前処理そのものが研究デザインの一部であり、統計解析と同等に説明責任を伴う

6. 前処理は「最小限」であるべき理由

形態解析の目的は、データを整えることではなく、形態変化を定量化することである。

前処理は、

  • セグメンテーションが成立する
  • 再現性が確保できる

この2点を満たす最小限に留めるべきである。

それ以上の操作は研究結果を「安定させる」のではなく、歪めるリスクを高める。

総括

形態解析研究において、前処理は「性能向上のための工程」ではなく、研究対象に手を加える行為である。

  • やりすぎないこと
  • 説明できること
  • 再現できること

これらを満たす前処理のみが、研究として許容される。