病理組織および医用画像における形態変化の定量解析を主軸とし、
加齢や疾患に伴って生じる組織変性の連続的プロセスを明らかにすることを目的とする。
従来、病理学的変化は疾患特異的かつ静的に記述されることが多かったが、私は形態変化を単なる結果ではなく、時間的に連続した過程として捉えることとしている。
形態計測(morphometry)に基づく定量的解析を研究の中核に据えている。
主な研究対象は、脳脈絡叢上皮を中心とした加齢および神経変性に関連する組織変化である。
さらに、内視鏡画像や超音波画像など、多様な医用画像も解析対象とし、画像解析手法やAIを補助的手段として導入している。
形態変化の定量解析(Quantitative Morphology)
本研究の中核は、病理組織および医用画像における形態変化の定量解析である。
組織学的変化は従来、定性的・記述的に扱われることが多かったが、私は形態計測(morphometry)に基づく指標を用い、細胞および組織レベルの変化を
再現性高く定量化することを重視している。
これらの手法は、特定の疾患に依存しない汎用的な枠組みとして位置づけられ、加齢や神経変性を含む多様な病態における形態変化の比較・統合的理解を可能にする。
脈絡叢上皮における加齢・神経変性
脈絡叢上皮は、脳脊髄液産生および血液脳脊髄液関門の形成を担う重要な組織である。
近年、アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患において、脈絡叢の形態変化や機能異常が報告されている。
だがその詳細な病理学的過程は十分に理解されていない。
脈絡叢上皮細胞の面積変化、細胞形状、配列構造などに着目し、加齢および神経変性に伴う形態変化を定量的に解析してきた。
細胞脱落、代償性肥大、細胞内構造の再編成といった変化が、孤立した事象ではなく連続した過程として生じる可能性を示している。
脈絡叢上皮細胞の加齢に伴う形態学的変化


Murakami R, Chiba Y, Miyatake N, Miyai Y, Matsumoto K, Wakamatsu K, Saito Y, Hara M, Murayama S, Ueno M
Morphometry of choroid plexus epithelial cells in neurodegenerative diseases
Neuropathology, 45: 202-209, 2024, 10.1111/neup.13019
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/neup.13019
アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経学的疾患において、MRI画像での脈絡叢の腫大が報告されている。
CoBiA 「ブレインリソースの整備と活用支援活動」の支援のもと、神経学的疾患を含むヒト脳組織を用い、脈絡叢上皮細胞の面積などと、年齢や疾患との相関を調べた。
症例数が数例ずつと少なかったため、症例ごとの上皮細胞の大きさに統計学的差異は認めなかった。
年齢と脈絡叢上皮細胞の大きさに正の相関を認め、これは加齢に伴い脈絡叢上皮細胞そのものが大きくなっていることを示す。
脈絡叢は脳脊髄液の産生だけではなく、概日リズム形成も担っている。脈絡叢への炎症などによる障害がこの腫大の原因と考えられ、その障害が加齢に伴う認知機能などの脳機能障害に寄与するのではないかという知見が得られた。
形態変化の分子・細胞学的基盤
形態変化は単なる構造変化ではなく、分子レベルおよび細胞内構造の変化と密接に関連している。
脈絡叢上皮における上皮バリア関連分子やミトコンドリア関連分子に注目し、形態変化との対応関係を検討している。
特に、上皮恒常性維持に関与する分子や、エネルギー代謝・細胞内構造に関わる分子の発現変化は、形態学的変性の進行段階と関連する可能性がある。
これらの解析を通じて、形態変化を分子・細胞学的背景をもつ現象として位置づけ、病態理解の深化を目指している。
脈絡叢上皮における SPINT1 発現と細胞肥大の分子基盤


Murakami R, Chiba Y, Takebayashi G, Wakamatsu K, Miyai Y, Matsumoto K, Uemura N, Yanase K, Ogino Y, Ueno M.
SPINT1 Expressed in Epithelial Cells of Choroid Plexus in Human and Mouse Brains.
International Journal of Molecular Sciences. 2025; 26(11):5130.
https://doi.org/10.3390/ijms26115130
脈絡叢上皮細胞における上皮性プロテアーゼ阻害因子 SPINT1(HAI-1) の発現を、ヒトおよびマウス脳組織を用いて解析した。
SPINT1は脈絡叢上皮細胞の細胞質に発現し、E-カドヘリンおよびその転写制御因子SIP1との関連が示された。
形態計測解析により、細胞肥大を示す上皮細胞でSPINT1発現が増強する傾向が認められた。
脈絡叢上皮細胞の肥大は、加齢や疾患に伴う脈絡叢上皮障害に対する、代償的反応である可能性が示唆された。
上記の形態学的研究で明らかとなった上皮細胞肥大を、分子レベルの変化と結びつけた報告であり、後続のミトコンドリア再構築(TOM20)研究へとつながるものである。
脈絡叢上皮細胞の肥大とミトコンドリア再構築(TOM20)


Murakami, R., Chiba, Y., Miyai, Y., Matsumoto, K., Wakamatsu, K., Saito, Y., Hara, M., Murayama, S., & Ueno, M.
Immunohistochemical Analysis of Tom20 in Choroid Plexus Epithelial Cells From Elderly Brains With Neurodegenerative Diseases.
Neuropathology 46(1), e70042. https://doi.org/10.1111/neup.70042
https://doi.org/10.1111/neup.70042
先行研究において、加齢に伴い脈絡叢上皮細胞が肥大することを形態学的に示してきた。本研究では、その代謝学的背景に着目し、ミトコンドリア外膜タンパク TOM20 を指標として、脈絡叢上皮細胞内のミトコンドリア変化を解析した。
アルツハイマー病、血管性認知症、パーキンソン病、多系統萎縮症を含むヒト剖検脳を用い、AI支援画像解析(Cellpose+Python)により多量の細胞以上を定量解析した結果、上皮細胞の肥大とTOM20陽性領域の増加に有意な正の相関を認めた。
すなわち、細胞肥大は単なる形態変化ではなく、ミトコンドリア量の増加を伴う代謝的再構築である可能性が示された。
本研究は、形態変化(Morphometry)および接着制御(SPINT1)に続き、脈絡叢上皮の変化をミトコンドリア動態という細胞内レベルで統合的に捉えた研究である。
加齢の伴う脈絡叢の肥大について、ひとつのメカニズムをこれら一連の研究で示すことができたように考える。
共同研究:医用画像における形態解析とAI手法
臨床の先生方との共同研究では、病理組織像に加え、内視鏡画像や超音波画像などの医用画像も解析対象としている。
これらの画像に対して、形態解析の考え方を適用し、構造変化を定量的に評価する枠組みの構築を試みている。
画像解析やAI手法は、本研究において目的そのものではなく解析手段として位置づけられる。
転移学習や特徴抽出手法を必要に応じて導入することで、人手による評価が困難な形態的特徴の抽出や再現性の高い解析を可能にしている。
これにより、臨床現場で取得される医用画像に対しても、形態解析の適用範囲を拡張している。